津波襲来を知らせる海鳴り
一般的に海鳴りは、沖の荒れた天候によって生じた波浪が、崩れる際に出す大きな音といわれています。それが厚く低い雲と海面に反射して、沿岸まで伝わると考えられます。そして、雲が厚ければ厚いほど、音は大きく聞こえる傾向にあり、最大10km以上伝わるとされています。
津波の際にも海鳴りが発生することがあります。気象庁ホームページには、津波波高が3メートルを超えると発生する「前面が砕けた波による連続音」を海鳴りとしています。
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html)
また、海外のサイト(https://www.tsunami.gov/?page=tsunamiFAQ)でも、“Natural tsunami
warnings include strong or long earthquakes, a loud roar (like a train
or an airplane) from the ocean” 「自然が教える津波警報には、強くて長い地震の揺れや海から聞こえる大きな轟音(電車や飛行機のような音)がある」と、海鳴りと考えられる現象が紹介されています。
こうした地震発生後の津波襲来を知らせた海鳴りの報告例としては、1896年明治三陸地震と1933年昭和三陸地震があります。いずれの地震でも津波襲来前に、沖合から大砲の砲撃のようなドーン、ドーンといった音響があったとの証言が残っています。
1933年昭和三陸地震のときは、事後に中央気象台などが各地で音響聴取状態を調査しています。砲声のようなこの音響は、青森県、岩手県、宮城県の各地で確認されました。また、この音響の正体が何だったのかについては、結局不明のままでした(吉村,
2004)。
1933年昭和三陸地震については、津波襲来を知らせる“海鳴り”の存在を後世に伝える碑文が残っています。青森県八戸市館鼻公園にある震嘯災記念の碑文に、「地震
海鳴り ほら津浪」と記されています(http://sekihi.minpaku.ac.jp/spots/view/40)。地震発生→海鳴り→津波襲来、と海鳴りが津波襲来を知らせるものであることを示しています。
では、2011年東北地方太平洋沖地震ではどうだったのでしょうか。今のところ、津波襲来直前の大砲の砲撃のような音響があったとする記録を見たことはありません。
昭和三陸地震などで聞かれた砲声のような音響の正体とともに、2011年東北地方太平洋沖地震における津波襲来前の同様の音響の有無についても、今後の調査対象となります。