電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (2)

 電気自動車(EV: Electric Vehicle)の二酸化炭素(CO2)排出量を正確に見積もることは、大変困難な作業になります。その理由は、特にCO2排出量が多いとされるバッテリー製造に関わるサプライチェーンが複雑なことにあります(6月14日付「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)」参照)。

 それでも、どれだけ環境負荷を軽減できるのかを見積もることは、EVへの移行が意味あることなのかどうかを判断するためには必要なことです。
 まずは、2030年までに新車販売のすべてをEVにすると発表したスウェーデンの自動車大手ボルボによる見積もりを取り上げます。
 これについては、日本語で紹介している「電気自動車の製造時には「ガソリン車の1.7倍のCO2を排出」していた!ボルボの試算だと、EVがガソリン車よりもエコになるには、約11万キロも走らねばならない」投稿日:2021/11/14 (https://intensive911.com/?p=246523)が参考になります。
 元の報告書は、https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf になります。

 この記事によりますと、同社の電気自動車である「C40リチャージ(XC40リチャージのクーペボディ)」の製造工程では、そのガソリン版である「XC40」に比べて70%以上(1.7倍)の排出ガス(CO2)が発生する、とのことです。この実験は、原材料の採掘から廃棄までの12万4,000マイル(20万キロ)におけるLCA(ライフサイクルアセスメント)による検証です。
 注目点は、それが2030年までに新車販売のすべてをEVにすると発表した自動車メーカーによってなされたことです。言い換えるなら、推進派がEVはエコとは言い切れないことを示したということです。
 これに対して、仮定が間違っている等の指摘をしているネット記事もありますが、そもそも正確に見積もること自体が難しい問題です。いろいろと注文をつけることはできるでしょう。

 さて、クルマの寿命を長期的に考慮した場合、損益分岐点(ガソリン車とEVの総CO2排出量が逆転する走行距離)がある点にも注意しなければなりません。
 この損益分岐点は、再生可能エネルギーを使っているかどうかといった発電方法によって異なってきます。その分岐点は供給エネルギー別で以下になります。
 (1) 通常の発電方法の場合:約11万キロメートル
 (2) 世界の平均的な再生可能エネルギーで供給された場合:約7万7千キロメートル
 (3) 全て再生可能エネルギーの場合:約4万9千キロメートル

https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf より

 上図の点線がガソリン車になります。走行距離ゼロのときは、EVよりもCO2排出量が少ないですが、例えば、約4万9千キロメートル走ったところで、全て再生可能エネルギーで充電されたEVよりも多くのCO2を排出することが示されています(図中の49の数字のところ)。

 下表は、ガソリン車(XC40 ICE)とEVの充電時の発電方法別による20万キロメートル走行時のCO2排出量を見積もったものです。

https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf より

 Materials production and refining が原材料の採掘と生産工程、Li-ion battery modules がリチウムイオンバッテリー製造時、Use phase emissions が走行時におけるぞれぞれのCO2排出量の見積りになります。
 「電気自動車はSDGs的にアリか? - CO2排出量から - (1)」では、EV の生涯にわたるCO2総排出量の約80%は、バッテリー製造時と使用時の電力を作る際に発生する(Mark Mills, 2021)、とありましたが、この表からバッテリー製造時と使用時の電力を C40 Recharge (global electricity mix) で計算すると、(7+24)/50 = 62% となります。
 Materials production and refining がガソリン車より4トン多いですが、これもバッテリー製造に関わるものとした場合でも、(4+7+24)/50 = 70% と、Mark Mills (2021) の 80% にはならず、少し開きがあります。

 次に、EVの新車完成時点(走行前)におけるバッテリー製造が占めるCO2排出量の割合は、7/(7+18) = 28%になります。上記同様に、Materials production and refining がガソリン車より4トン多い点を考慮すると、(4+7)/(7+18) = 44% になります。
 EVの新車完成時点でバッテリー製造により排出されるCO2は、生涯排出量の28%〜44%もあると考えられます。

 今回のボルボの試算は、走行時の発電方法の違いまで考慮したものでした。しかし、石油採掘からガソリン精製、そして給油までに排出されたCO2と、発電設備建設に必要な資源採掘から発電、そして車へ充電されるまでに排出されたCO2との比較までは考慮されてはいないようです。(上表の global electricity mix, EU-28 electricitymix, wind electricity の Materials production and refining が全て18トンと同じことからの推測。)

 EVの普及には給油所ならぬ給電所の設置も必要になります。給電所のほかに需要拡大に伴う新たな発電所建設も必要になるでしょう。このような点にも注意が必要です。

2022年06月21日